今はこのルールだけど将来は同じとも限らないということは往々にしてよくあることです。そこでよーく確認しておきたいのが「海外の国内線」におけるバッテリーの持ち込みルールです。
(当記事は2019年時点におけるお話です)
結論を言えば業界団体IATAによって「現時点における」ルールを定められているけど、最終的には航空会社に直接確認せよ、というお話です。
私自身、電源の確保が困難な場所へ行く予定があるため、海外のローカル線を就航している航空会社に何度も何度も確認をし、最近になって知りたい答えを得たという経緯があります。
一般的なルールとしてIATAでガイドラインを設けていますが、航空会社と私の認識に食い違いが生じたことで色々と調べることに。この食い違いを解消しておかないと後々、後悔することが目に見えてしまったんですね。
もくじ
業界団体(IATA)のガイドラインを確認する
各航空会社は輸送に関してIATAが定める危険物規則書(DGR:Dangerous Goods Regulations )と現地の関連法規に従っています。
2019年のDGRは第60版。これは毎年刷新されており逐次、ルールが改定がされています。例えばリチウム電池に係る輸送規則の変更(ANA Cargoのページ)です。輸送ですから、あまり旅行者には関係ないのですが…。
ところが旅客にも関係ある部分があるんです。てか調べて初めて知ったよ…。
DGRは第60版のTABLE 2.3.Aに「乗客または乗組員によって運ばれる危険物の規定」という項目があります。
TABLE 2.3.Aの冒頭にこんな記載があります。(妙訳)
危険物は、以下に定めがある場合を除き、搭乗者または乗員として、または受託手荷物(預け荷物のこと)または機内持ち込み手荷物として持ち込まれてはなりません。特に指定のない限り、機内持ち込み手荷物で許可されている危険物も「自分のものとして」許可されています。
Dangerous goods must not be carried in or as passengers or crew, checked or carry-on baggage, except as otherwise provided below. Dangerous goods permitted in carry-on baggage are also permitted “on one’s person”, except where 2 otherwise specified.
引用:https://www.iata.org/whatwedo/cargo/dgr/Documents/DGR-60-EN-2.3a.pdf
もちろん、バッテリーについての記述もあります。内容を見てみると「Permitted in or as carry-on baggage」は「Yes」になっていますよね。つまり。バッテリー関係は手荷物じゃなきゃダメよ、ってことを言っています。
青枠で囲った部分の妙訳です。
- 携帯電子機器用のバッテリー(リチウムイオン、リチウム金属)は、機内持ち込み手荷物のみに入れて持ち運ばなければなりません。
- リチウム金属電池の場合、リチウムの含有量2 gを超えてはならず、リチウムイオン電池の場合は、ワット時定格量は100 Whを超えてはなりません。
- 電源としての目的を持っている品目、例えばモバイルバッテリーは予備のバッテリーと見なされます。
- これらの電池は、短絡(ショートのこと)を防ぐために個別に保護する必要があります。
- 一人当たり最大20個の予備バッテリーまで制限されます。
上記で大事なのは2点。
・リチウムイオン電池は100Wh以下。
・であれば20個まで持ち込みOK。
というのがIATAで定められているルール。ここでもう一つ大事な点があります。
この記事を読んでいる方はリチウムイオン電池を持っていきたいはずです。
これは覚えておこう。「リチウムイオン電池」と「リチウム金属電池」の相違点
普段、何気なく使っているカメラのバッテリーですが、海外の国内線移動まで含めた渡航を考えているなら言葉の定義は覚えておいたほうがいいでしょう。その理由は、各航会社の表現方法でバッテリー種別が明確に区別されているからです。
先に挙げたIATAの表現で “Lithium metal battery” が「リチウム金属電池」のことを指しており、航空会社のページでは単に日本語表記で「リチウム電池」と表現されていたりします。対して “Lithium ion battery” が「リチウムイオン電池」のことを指しています。
一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラで使われているバッテリーは「リチウムイオン電池」のほうです。これは二次電池の一種で充電ができます。
リチウムイオン電池は、ありとあらゆるIT機器、電化製品に使われています。例えば、ロボット掃除機、スマートフォン、ノートPC、タブレット端末など。
リチウムイオン電池の特徴は電化製品の充電に関する説明の通り。
・500回以上の充放電が可能
・放電電圧は3.7V
ほとんどの旅客はこちらのリチウムイオン電池タイプを持っていくでしょう。ワット時定格量 Wh が定められているのもこちらのタイプです。ですから、航空会社のWebサイトの情報を見るときは、先ずは Wh の表記から確認するのが順当な流れということになりますね。
一方で「リチウム金属電池」は一次電池で充電ができません。使用用途としては、腕時計などのコイン型電池CR2032が例に挙げられます。
特徴は以下の通り。
・使い切り電池で使い捨て
・放電電圧は3V
リチウムの含有量2gと規定されているのがこちらのリチウム金属電池です。
以降は充電ができるタイプのリチウムイオン電池を対象に、カメラ用のバッテリー、モバイルバッテリーを持っていくことを想定したケーススタディを考えてみましょう。
一眼カメラ用のバッテリーは何個まで機内持ち込みできる?
結論を言うと20個までと規定を設けている航空会社が目立ちます。
先ずは代表的なミラーレス一眼のバッテリーの「電力容量 Wh」を見てみましょう。バッテリーの仕様情報では放電容量 を示す「mAh」のほうに目がいきがちですが、機内持ち込み荷物で問われるのは電力容量「Wh」です。
電力容量 Wh = 放電容量 mAh × 公称電圧 V ÷ 1000
下の表の電力容量 Wh は四捨五入で算出しています。そのため各メーカーがバッテリーに貼っているシールに記載されている電力容量と解釈の相違(±0.1Wh)があることを前提で掲載します。
カメラ | バッテリー型番 | 放電容量 | 公称電圧 | 電力容量 |
---|---|---|---|---|
α7Ⅲ | NP-FZ100 | 2280mAh | 7.2V | 16.4Wh |
Z7/Z6 | EN-EL15b | 1900mAh | 7.0V | 13.7Wh |
EOS R | LP-E6N | 1865mAh | 7.2V | 13.4Wh |
O-MD E-M1 MarkⅡ | BLH-1 | 1720mAh | 7.4V | 12.7Wh |
O-MD E-M5 MarkⅡ | BLN-1 | 1220mAh | 7.6V | 9.3Wh |
LUMIX G9 PRO | DMW-BLF19 | 1860mAh | 7.2V | 13.4Wh |
LUMIX GX8 | DMW-BLC12 | 1200mAh | 7.2V | 8.6Wh |
FUJFILM Xシリーズ X-T3、X-T2 X-H1 X-Pro2 | NP-W126S | 1200mAh | 7.2V | 8.6Wh |
上記に挙げたミラーレス一眼のカメラにはリチウムが含有されたバッテリー(リチウムイオン電池)が使われており機内持ち込み制限がかけられています。
充電が可能なリチウムを含有する電池(リチウムイオン電池)なら100Wh以下の電力容量に限り20個以下までなら持ち込みしてもいいよ、というのが2019年現在、定められているルール。先ほどIATA 危険物規則書60(DGR: Dangerous. Goods Board )のTABLE 2.3.Aで挙げた記載の通りです。
モバイルバッテリーは何個まで機内に持ち込みできる?
もちろん、モバイルバッテリーもリチウムを含有していますからリチウムイオン電池として見做されます。ここでも電力容量が100Wh以下なら20個以下までOKルールが適用されます。2019年現在では。
事例を出しましょう。先ほどリチウムイオン電池の公称電圧は3.7Vです。
電力容量 Wh = 放電容量 mAh × 公称電圧 3.7 V ÷ 1000
Anker Power Core13000
13000mAh × 3.7 V ÷ 1000 = 48.1Wh
Anker Power Core 20100
20100mAh × 3.7 V ÷ 1000 = 74.37Wh
Anker Power Core 26800
26800mAh × 3.7 V ÷ 1000 = 99.16Wh → 100Wh以下(ギリギリですね)
以上のことから、26800mAhのモバイルバッテリー2個と、ミラーレス一眼用のバッテリー18個の合計20個なんていう持ち込みも可能になります。(あくまでも2019年現在ね)
なお、100Whを越えるものについては、2個までしか持ち込みできませんね。
ソーラーチャージャーは機内持ち込みができるのか?
ソーラーチャージャーでも蓄電機能ができるもの、蓄電機能はないけどソーラーパネルを通じてスマホやモバイルバッテリーに充電できるものがあります。
蓄電機能がないタイプであれば、手荷物(つまり機内持ち込み)でも預け入れ荷物でもOKということになります。
ソーラーチャージャーについては海外の国内線を就航している航空会社に問い合わせたところ仕様情報を求められました。彼らは蓄電機能が備わっているものなのか、それとも単に蓄電用のパネルだけなのかを判断するために情報を求めてきたのでしょう。
とりあえず、のつもりで打診してみたのはAnkerのソーラーパネル。蓄電機能はありません。
製品名:Anker PowerPort Solar (21W 2ports of USB)
出力:DC 5V = 3A (15Wh)
URL:https://www.ankerjapan.com/category/SOLARCHARGER/A2421.html
で、もらった返事がこれ。ソーラーチャージャーは手荷物でも預け入れのどちらでもOKだけど手荷物なら保安検査が必要ですよと。
We wish to inform you that you may carry the solar charger both in your check in and hand luggage, but if carried in cabin luggage, it will be subjected to security clearance.
航空会社の情報を確認する
IATAガイドラインを設けていますが、航空会社が独自に規定を設けている場合があります。ですからしっかりと情報を確認しておく必要があります。それが海外のローカル線(国内線)であれば尚更のことです。
いくつか航空会社の情報を確認してみましょう。
各航空会社共にいくつかの共通点がありました。
・短絡(ショートしないように)保護せよ
・機内手荷物は100Wh以下に限る
・160Wh以上は手荷物も預かりもNG
JAL 及び ANA
・100Wh以下なら持ち込み制限なし(←IATAでは20個までだった)
・160Wh以下までなら2個まで
どちらも同じ様な内容を掲載しているけど参考に。
マレーシア航空
・予備バッテリーは100Whまでかつ一人20個まで
・電子機器は100Whでかつ15個まで
Spare / Loose Lithium Batteries (including power banks)
引用:What is the requirement for Lithium Batteries?
・Up to 100 watt-hours
・Limit to maximum of 20 spare per passenger with operator’s approval
Contained in Portable Electronic Devices (PED)
・Up to 100 watt-hours
・Limit to maximum of 15 PED per passenger
キャセイパシフィック航空
予備のリチウム電池は、100Wh以下/リチウム含有量2g以下でなくてはなりません。
予備電池20個(1名様あたり)
引用:予備の電池を携行する
ニュージランド航空
1人あたり最大15台の携帯電子機器(カメラ、携帯電話、ノートパソコン、タブレットなど)と、1人あたり最大20個の予備電池に制限されています。ニュージーランド航空ではバッテリーの種類に応じたワット/時またはリチウム含有量に基づき、規定を定めています。
引用:リチウムバッテリーをお持ちの場合
カタール航空
リチウムイオン電池を搭載したポータブル電子機器はお一人様最大15個までお持ち込みが可能です。その際、リチウムイオン電池はワット時定格量100Wh (リチウム含有量2G)以下となります。
予備電池は電池の種類にかかわらずお一人様最大20個までお持ち込みが可能です。
引用:制限のあるお荷物
エア・インディア
・電子機器は手荷物のみ
・リチウムイオン電池はワット時定格量100Wh かつリチウム含有量2g以下
・予備バッテリーは20個以下
Carriage of Battery cells.
Batteries spare / loose, including lithium ion cells or batteries, for portable electronic devices must be carried in carry-on baggage only. For lithium metal batteries the lithium metal content must not exceed 2 g and for lithium ion batteries the Watt-hour rating must not exceed 100 Wh. Articles which have the primary purpose as a power source, e.g. power banks are considered as spare batteries. These batteries must be individually protected to prevent short circuits. Each person is limited to a maximum of 20 spare batteries.
引用:http://www.airindia.in/hand-luggage.htm
ブリティッシュエアウェイズ
特に予備バッテリーに対する制限が4個までと厳しいですね。
帯電話やラップトップ、デジタルカメラなどに使われる100ワット時以下のバッテリー
引用:禁止・制限品目
機内持ち込み手荷物の中
・デバイス内に保存
・1人あたり最大4個の予備のバッテリー(パワーバンクを含む)は元のパッケージの中に保管するか、絶縁/保護して、金属との接触から防ぎます。
・リチウム金属電池のリチウム含有量は2g以下とします。リチウムイオン電池は100Whを超えてはいけません。
てな感じで各航空会社でWebサイトに規定を掲載しています。しかしながら、階層が深いところに記載してあると探すのも一苦労…。
こういう場合は、航空会社に直接問い合わせをしちゃいましょう!
航空会社にバッテリーの持ち込み制限について問い合わせをしちゃおう
日本語に支店があるような航空会社なら日本語で問い合わせできちゃいますが、海外に拠点を持っていて日本に乗り入れしてない航空会社なら英語で問い合わせる必要があります。
ここでの注意点は抽象的な質問をすると、一般論的な回答、つまり先に挙げたIATAのガイドライン的な回答がそのまま返ってくる可能性が高いです。
日本人のように相手の背景事情を汲み取って、気の利いた回答を得る、というのはあり得ないので具体的かつ明瞭に質問を投げかける必要があります。当たり前のことですが、意外と盲点になりがちです。
具体的に
・何をどのくらい持ち込みたいのか
・それはどんな仕様なのか(つまりワット時定格量 Whのこと)
というようなことを明確に問い合わせましょう。きっとあなたの質問に明確に答えてくれるでしょう。
空港のホームページを確認する
念のために航空会社のHPも確認しておくといいですね。幾つか例を出しましょう。
成田国際空港
携帯電話やデジタルカメラなどのバッテリー類の航空機内持ち込み、お預け入れについて には以下の記載があります。
リチウムイオン電池は預け入れ手荷物としてお預けできませんので、 お客様ご自身で客室内へお持ち込みください。
引用:携帯電話やデジタルカメラなどのバッテリー類の航空機内持ち込み、お預け入れについて
また、160Whを超える場合は客室内へもお持込いただけません。
スマートフォンや携帯電話、その他電子機器等に使用するバッテリー(リチウムイオン電池等)は、国土交通省の指示に基づき、預け入れ手荷物としてお預けいただくことができません。
国土交通省の指示とは何でしょうか?
関西国際空港のWebサイトでは国土交通省のWebサイト(航空機への危険物の持込みについて)を見に行くよう促されます。
さらにそのページを追っていくと「安全な空の旅のためにお出かけ前にご確認を。飛行機に持ち込めないもの」政府広報オンラインのページ)があります。
そこにはこう記されています。
機内持ち込み手荷物、預け手荷物のどちらにしても、旅客が飛行機に持ち込める荷物については、航空法や国際民間航空機関(ICAO)の取り決めにより、世界共通の基本ルールが定められています。ここでは、その基本的なルールをご説明します。
なお、航空会社によって細部が異なる場合があったり、国際線と国内線によって差異があったりしますので、詳細については、実際に利用される航空会社などに確認することをお勧めします。<中略>
引用:政府広報オンライン 飛行機に持ち込めないもの
リチウム金属電池は1個あたりのリチウム含有量が2グラム以下のものに限り、リチウムイオン電池はワット時定格量が100whを超え160wh以下のものは2個まで、100wh以下のものは個数の制限なく、機内持ち込み手荷物にできます。
実は冒頭で触れたIATAの危険物規則書(DGR:Dangerous Goods Regulations )は、ICAOの指針に従って刊行されています。
IATA DGR:ICAOの指針に従って民間航空業界団体IATA(国際航空運送協会)が毎年刊行するIATA Dangerous Goods Regulations「危険物規則書」(DGR)は、航空会社の自主的規則で、ICAO TIとほぼ同内容です。
引用:国立図書館リサーチナビ 危険物輸送に関する国際的な取り決め
以上のことから、成田空港や関空のバッテリーに関するガイドラインは結局はIATAのDGRに帰結することになる、ということが分かりますね。
英国のロンドン・ヒースロー空港
ヒュースー空港のHPで記載されている Security and baggages FAQ の “Electrical and electrical items” の項目を見ると、”Can I carry spare batteries in my hand baggage?” という欄に最新情報が欲しければ www.caa.co.uk (CAA:Civil Aviation Authority:民間航空局)のWebサイトを見に行けと言っています。
CAAの Items that are allowed in baggage のページはこんな記載があります。
以下の情報は、航空機による危険物の安全な輸送のための国際民間航空機関(ICAO)の技術説明書の最新版に基づいています。 許可された危険物は個人使用の場合にのみ持ち運ぶことができます。(Google翻訳より)
The following information is based on the current edition of the International Civil Aviation Organisation (ICAO) Technical Instructions for the Safe Transport of Dangerous Goods by Air. The permitted dangerous goods may only be carried when for personal use.
引用:Items that are allowed in baggage
ここでもICAO の指針に従っていることが窺えます。
で、上記ページの Batteries (carried as spares)の欄では特に100Wh以下のものについては個数に触れられておりません。ここは航空会社の規定を確認するのが一番でしょうね。
インドのデリー・インディラ・ガンディー国際空港
成田空港や関空、ヒースロー空港ではたらい回しされている感がありましが、デリー国際空港ではストレートにアプローチしてくれている感じ。
Know The Rulesのページに行くと “2. Dangerous Goods Regulations” というリンクがあります。
実はこのリンクをクリックすると冒頭で触れたIATAの危険物規則書(DGR:Dangerous Goods Regulations )第60版のTABLE 2.3.AのPDFファイルがダウンロードされるんですね。さっきと同じ画像使いますけどこれです。
つまり、IATAの危険物規則書(DGR:Dangerous Goods Regulations )に沿って運用していることが窺えます。
以上、長々と説明してきましたが、冒頭でも書いた通り、IATAによって「現時点における」ルールを定められているけど、最終的には航空会社に直接確認せよ、加えてご自身で利用される空港のページも確認したら鉄壁じゃない?ということを言いたかったのでした。
最後に2019年時点で多くの航空会社が定めている機内に手荷物として持ち込める最大容量のモバイルバッテリーはAnker Power Core 26800(99.16Wh)だと認識しておけばいいでしょう。
それでは。