あなたは古代ローマの剣闘士(グラディエーター)たちが菜食の食事をしていたという事実を知ったらどう思うだろうか?
「え?肉を食ってたんじゃないのか?」と疑問を持つはずです。
何故ならば剣闘士は筋骨隆々のイメージだからです。
今回アスリートがプラントベースの食事を摂る利点にクローズアップしたドキュメンタリー映画「The Game Changers」を観たので印象に残った部分をまとめてみました。
また、私なりの考えも最後にまとめています。
The Game Changersに登場してくるアスリートたちが活躍している分野は多岐に渡ります。
アメフト選手、ボディビルダー、リフター、サイクリスト、ランナー、挌闘家 etc.
日本で日常生活をしていると気付かないかもしれませんが、彼らのようにプラントベースの食事で高いパフォーマンスを発揮しているアスリートたちが実在するんですよね。
The Game Changersはアスリートだけでなく登山やトレランなどの持久系スポーツをやる人も必見です。
※当記事では英語スクリプトを抄訳しています。大筋の内容は伝えるつもりですが、細かい訳についてズレがある可能性があります。予めご承知おきください。
The Game Changersの冒頭でこういうメッセージが流れます。
簡単に言うと医療目的で制作された映画ではない、ってことです。
This film has been endorsed and/or accredited by numerous medical ad military organizations. However, its content is not intended to be a substitute for professional medical advice, diagnosis, or treatment.
この映画は多くの医療団体等によって承認を得ていますが専門的な医療アドバイス、診断、または治療に代わるものではありません。(医療目的で制作られたのではない)
もくじ
The Game Changersの概要
元・総合格闘家のジェームス・ウィルクスが、人間がパフォーマンスを発揮するのに最適な食事を発見するために世界中を旅し菜食を主体とした食事を実践しているアスリートたちに会っていくドキュメンタリーです。
ある時、ジェームスはトレーニング中に膝の怪我を負います。
ジェームスは半年間のリハビリ期間中、怪我の回復に最適な食事の研究を始めます。
ある時、彼は肉をほとんど食べなかったと結論付けたローマの剣闘士に関する論文[1]に出会いました。
ジェームスは、筋肉を作り、エネルギーレベルを維持し、怪我から回復するために動物性タンパク質が必要であると確信していたので、にわかに信じ難いように思っていました。
そこでジェームスはオーストリアに飛んで、この発見をした研究者に会いに行き、当時、ホーディアリ(Hordearii)-「大麦の男」として知られている剣闘士たちは実際にプラントベースの食事で訓練し競っていたと確信します。
この衝撃的な発見はジェームスを突き動かします。
ジェームスは4大陸を旅して世界中の何十人もの最強、最速、最強のアスリートと出会うと共に、アスリート、栄養、人類学の第一人者と出会いました。
彼はこう言ってます。
What I discovered was so revolutionary, with such profound implications for human performance and health — and even the future of the planet itself — that I had to share it with the world.
私が発見したのは非常に革命的で、人間のパフォーマンスと健康、さらには地球自体の未来に大きな影響を与え、世界と共有しなければなりませんでした
菜食の食事をしているアスリートたち
The Game Changersに登場するアスリート達をピックアップして紹介しましょう。
彼らの共通点は、出身地、パフォーマンスを発揮する領域、体格が違えど菜食(プラントベース)の食事を摂っているということです。
ストロングマン・PATRIK BABOUMIAN
ストロングマンの異名を持つパトリック・バブーミアンは身長171cm、体重は130kg(The Game Changersで言及)のパワー体型をした怪力男です。
日本人の平均的な男性とほぼ同じ上背ですが、体重は約2倍、パワーはそれ以上ありますね。
片手で80kgのオーバーヘッドプレスを行ったり、車を持ち上げて転がしたり、550kgものウェイトを担いで歩いたりと凄まじいパワーを持った人物です。
そんな桁外れたパワーを持つバブーミアンは牛乳や卵を含む動物性食品を一切食べないヴィーガン(完全菜食主義)です。
ドキュメンタリーの中でバブーミアンは言います。
肉をやめたのは2005年。105kgだった体重が130kgになった。
当時に4つの世界記録を作った。
肉をやめてからの方が強くなったと。
肉食と決別し2011年からはヴィーガンになりました。
サイクリスト・DOTSIE BAUSCH
ドッチィ・バウシュはトラックレースで全米チャンピョンを8回達成、パンアメリカンを2連覇を達成したサイクリストです。
バウッシュはドキュメンタリーの中で
トレーニングは週6日、1日に4〜5時間もの山のアップダウンを繰り返す練習、そしてトラックとジムのトレーニングもある。
出身は肉料理で有名なケンタッキー州。
完全菜食の食事へ移行していく際には不安も覚えた。
しかし、現実は劇的な結果でした。
レッグプレス(※)の重量を300ポンド(136kg)から580ポンド(265kg)にし60回5セットをこなせるようになりました。
と述べています。
※The Game Changersでレッグプレスをやっているシーンが出てきますが、彼女はパーシャルで組んでます。
また、彼女はこうも言っています。
疲れ知らずになった。
アスリートにとって回復力は重要な要素だ。
バウシュは35歳の時、引退を考えていたが絶好調でオリンピック代表に選ばれ、39歳の時に表彰台に立つことになります。
My diet was the most powerful aspect to me.
私にとって食事こそが最大の武器だった
<情報>
バウッシュのオフィシャルページ
https://dotsiebauschusa.com/
元ボディビルダーARNOLD SCHWARZENEGGER
有名ですよね。
元ボディビルダーのアーノルド・シュワルツェネッガーです。
彼もベジタリアン推しのようですね。
The Game Changersのドキュメンタリーではシュワルツェネッガーはこう言っています。
昔は肉を大量に食べていた。
卵も1日10〜15個食べてた。
タンパク質は250g/日を摂取していた。
彼もまた書物を調べて気づきます。
タンパク質は動物から取る必要がないと。
そして菜食へ切り替えていきます。
ステーキ、男の食べ物!
肉を食え、男らしく食べろ!
シュワルツェネッガーはこう言います。
わかるよ分かるよ、この世界に浸っていたから。
「ステーキ、男の世界」
肉のCMばかりだった。
有名人まで出演していた。
しかも量はすごく多い。
がっつり食べて男になれ。
業界にとっては大きな市場だ。
これぞ男の食べ物。
男という概念を植え付ける。
ただのマーケティングだ。
彼は肉をやめることについてこう言及しています。
突然、肉をやめろと言ったら「何を食べようと勝手だろ」となる。
だが説明をすれば変わる。”週に一度でいい” ”肉から離れよう”
肉食神話の登場
ドイツの化学者、J・V・リービッヒ(※)は
”筋肉のエネルギーの源は動物性タンパク質であり菜食主義者は持久力がない” と唱え、USDA(アメリカ合衆国農務省)からも認められます。
リービッヒの考えは世間に広く浸透していましたが、彼の考えに疑問を持つ人もいました。
1908年以降、菜食主義者の金メダリストが誕生し始めます。
- イギリスの陸上選手 エミール・ボイト
- フィンランドの長距離選手 パーヴォ・ヌルミ
- イギリス生まれオーストリアの競泳選手 マレー・ローズ
- アメリカの陸上選手、エドウィン・モーゼス
- 同じくアメリカの陸上選手 カール・ルイス
カールルイスは、こう言っています。
I changed my diet to a vegan diet and I set all of my personal beats at 30 years old.
30歳で菜食の食事に変え自己ベストを出した。
リービッヒの学説は科学的には間違っていました。[2]
筋肉を動かすのはプラントベースの糖質でした。
2016年のオリンピックの400mオーストラリア代表 M・ミッチェルはこう言っています。
前半はスピードが勝負だけど後半は持久力が勝負だ。
最後の50mは筋疲労が激しい。
何より持久力が大事だ。
菜食で十分なタンパク質が摂れるのか?
元チームドクターのジェイムズ・ルーミスはこう言います。
牛肉に含まれるタンパク質は牛が食べる植物に由来する。
すべてのタンパク質は植物由来である。
牛、豚、ニワトリはただの中継ぎにしか過ぎない。
例えば、1カップのレンズ豆やピーナッツバターバターサンドは、85gの牛肉または卵3個に匹敵する。
では、質的にはどうだろうか?
・タンパク質はアミノ酸が結合したもの
・体内では合成されない必須アミノ酸
・多くの人は動物性が完全であり植物性の方が不完全だと思っている
必須アミノ酸とは?(厚生労働省のe-ヘルスネットより)
イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン、ヒスチジンの9種類である。
しかし、誤りである。
植物にもすべての必須アミノ酸が含まれていることが判明。
筋力に関しアミノ酸の消費量が適量であれば動物性か植物性なのかは関係ないとされる研究もあります。
There were no differences in strength or mass/muscle mass
引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26764320
強度や質量/筋肉量に違いはない。
動物性食品の弊害:それは血管内の血流量による筋肉のパフォーマンス低下
心臓血管の専門家ボーゲル医師は言います。
食事と血管内皮機能は相関関係がある。
内皮は薄い細胞の層であり血流を調整している。
筋肉、臓器の必要な血流量に応じて拡張する。
細胞が弱まると血管を拡張できず十分な血液が流れない。
よって筋肉のパフォーマンスが落ちる。
ボーゲル医師はある実験をします。
3人の被験者を使って動物性タンパク質と植物性タンパク質を摂った人の血液を比較するというものです。
結果、動物性タンパク質を摂った人の血液は脂っこく濁っていたのです。
ボーゲル医師はこう言います。
食事による血液への影響は6〜7時間。
朝から晩まで動物性タンパク質を食べていると1日中、血液が汚れてしまう。
これでは運動能力を発揮できないと。
この結果を裏付ける研究結果が数多く報告されています。
beetroot juice supplementation boosts performance in exercise modalities involving intensive endurance efforts in which the dominant type of energy metabolism is oxidative
引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5756374/
タンパク質の由来を問う
動物性と植物性のどちらが炎症や怪我の治癒力が高いのか?
米国ボブスレー連盟医師のスコット・ストールは言います。
・動物性タンパク質は炎症を引き起こす可能性がある
・内毒素、ヘム鉄などの炎症分子を含んでいるからだ
・動物性食品の摂取は消化中に腸内フローラを変質させる
・その結果、炎症を促すバクテリアがはびこり炎症ミディエータTMAOを生産する
・炎症は動脈の血流を悪化させ筋肉や関節の痛みを増加させる
・植物性食品はミネラル、ビタミンが豊富であり抗酸化作用がある
・炎症を抑え腸内環境を整える
・血液供給能力の向上
・植物性食品の抗酸化物質の含有量の平均値は1157、動物性食品は18で64倍にも及ぶ
・菜食に切り替えるだけで3週間で炎症の数値が29%減少する
菜食は、
- 腱、筋肉をの血管を太くし
- 傷ついた組織を修復し新しい組織を生成し
- 免疫力を高め感染症を撃退する
と映画の中で説明されています。
動物性タンパク質の弊害
心臓専門医のC・バチスト医師は言います。
赤身の肉だけが心臓病の原因ではない。
赤身や脂肪だけでない。
動物性食品の炎症分子は回復を損ねるだけでなく心臓病を引き起こす働きもする。
例えばヘム鉄が挙げられています。
血友病の専門医ヘレン・ムーンは言います。
ヘム鉄は動物由来で赤身の肉、鶏肉、魚にも含まれている。
ヘム鉄の摂取と心臓病の関連性の研究[3] −13万人以上の患者を調査し結論に至った。
毎日1mmgのヘム鉄摂取で冠動脈疾患のリスクが27%高まる。
(ハンバーガーは2〜3mmg含まれる)
心臓専門医のC・バチスト医師はこう言っています。
ヘム鉄だけでなく動物性タンパク質も問題。
タンパク質は加熱されたり腸内で消化されると炎症化合物が生成されてしまう。
ディーンオーニッシュ医師は…
動物性タンパク質を大量に摂取する人は、早死する確率が75%高く、ガンや糖尿病による死亡率が4〜5倍高くなる。
ハーバード大学教授のウォルター・ウィレットは…
乳製品由来の由来のタンパク質を過剰に摂取すると前立腺ガンになる確率が40%増加する。
と言ってます。
人類の祖先は菜食だった
マックスプランク研究所の考古遺伝学者 C・ワーリナーによると、
骨や道具の保存状態に比べ植物はすぐ腐敗する。
新たに分かったことは
微細な植物の化石が保存されていることである。
動画の解説ではこう述べている。
テクノロジーのおかげで古代人の道具、骨や歯の分析が進んで分かったことは、祖先は菜食に近い生活をしていたというとである。
<参考情報>
”人類の祖先はほぼ菜食主義”
Human Ancestors Were Nearly All Vegetarians
Ancient leftovers show the real Paleo diet was a veggie feast
C・ワーリナーは、
遺伝子的にも身体的構造的にも人間は肉食に適してない。
植物の消化吸収に適している。
肉食動物に比べ消化管が長いので植物を消化できる。
(その長さは体長の15倍にも及ぶ)
人間はビタミンCを生成できない。
それゆえに植物で摂取する必要がある。
人間は三色視で色を見ることができる。
対して肉食動物は二色視である。
新鮮な果物を見つけるには色が見えるのが大事。
※三色視とは赤・青・緑のそれぞれを感知できる能力。
ロンドン大学の遺伝子学者 マーク・トーマス
人間の脳は唯一のエネルギー源であるブドウ糖を求める。
肉は供給源に適してない。
効率よく摂取するには糖質が一番だ。
※実際に人間の歯も肉食動物のように尖っておらず食物繊維向きである。
菜食の代表、大豆食品のエストロゲンの摂取は大丈夫なのか?
The Game Changersでエストロゲンに関する説明がされています。
大豆に含まれているのは植物エストロゲン。
エストロゲンとは反対の働きをする。
乳製品由来のエストロゲンの過剰な生成を防いでいる。
コルチゾールは筋肉量を減少させ体脂肪を増加させる。
食事を動物性から炭水化物中心に変えるとコルチゾールレベルが27%減少する。
生成された糖質は体重を増やす。
バナナやサツマイモの様な自然な糖質が体脂肪の減少と関係している。
”筋力トレーニングに関する実験の結果” によると
糖質を適量に摂取したグループは筋肉がつき
低糖質グループは減少したそうです。
恐ろしい業界の裏事情
冒頭で触れた元・総合格闘家のジェームス・ウィルクスの祖父は心不全で他界しました。
彼の祖父はヘビースモーカーでした。
大戦中はパラシュート部隊におり、タバコは体にいいと教えられてきました。
タバコの宣伝にはスポーツ選手が起用されておりました。
健康の象徴とも言える彼らが、試合後に一服するシーンが映像から流れてきます。
しかし、ベーブルースが咽頭癌で他界すると、科学的な根拠が出始めます。
”タバコは病気の元”だと。
そこで業界は新しい市場戦略が必要になりました。
喫煙はガンの原因ではないと、でっち上げたマーケティングを展開します。
研究者を雇い ”Chesterfield cigarettes are just as pure as the water you drink” (純度は水と同じ)という論文を出させます。
しかし、テレビでのスポーツ番組でのタバコCMは禁止。
そこで新しい業界が登場します。
マクドナルドです。
ここでもタバコと同じ戦略が取られます。
アスリートたちが登場します。
しかし、ここでも槍玉に上がります。
食品業界もまた、専門家を雇い「加工肉や赤身の肉には発がん性がない。科学的な根拠がない」と宣伝します。
しかし、動物性食品の害を指摘する科学的な根拠はあったのです。
これに対して食品業界は特に反応もせず、裏でこの学説を否定する研究を支援していたのです。
雇われた研究所の1つは喫煙とガンを否定するため、タバコ業界が雇った会社と同じでした。
この会社は50年以上健康リスクに関わる学説に意義を唱えることでした。
エール予防研究センターのディビット・カッツ博士は言います。
このやり方は食品業界や医療品業界にとって上手く機能している。
メディアも同じだ。
そのお陰で話題に不足しない。
ベーコンは安全。
バターもセーフ。
様々な議論があるかの様に見えますが、食事に関する議論は世界的に合意が取れている。
健康に良い食事は決まっている。
あらゆる研究が結論を出している。
それは植物中心の食事だ。
世界の農地の4分の3は家畜の生産に使われている
肉や卵などの畜産に関わる部分では世界の農地の83%を使用している。
そこから得られるカロリーは僅か18%。
家畜は農地の仲介役にしか過ぎません。
生産するタンパク質の6倍を消費する。
毎年700億以上の家畜が消費され
飼料に莫大な農地が使われる。
森林破壊の要因になる。
大量の水が消費される。
世界の川の25%は海に流れてない。
飼料を育てるために使うからである。
牛は牛肉に加工されハンバーガー1個に使われる水は2400リットル。
動物性食品に使う水は人類の消費量の27%にも及ぶ。
水質汚染の問題もある。
家畜は全人口の50倍もの廃棄物を排出している。
川、湖、地下水を汚染している。
あなたはそれでも肉を食べ続けますか?
私がプラントベース食に移行してきた理由は、環境だとか動物愛護だとか次元の高いものではありませんでした。
もっと身近で単純な理由です。
色々と理由はありますが、例を挙げると…
- 肉って種類が少ないからつまんなよね
- 魚の方が種類が多いね
でした。
しかし、肉に関する背景事情を知れば知るほど、結局は飼育の仕方や環境に結びついてくるのです。
今回、「The Game Changers」を手にしたのも、肉を摂らなくても体は強くなるのだ、という担保的な理由を求めていたのでしょうね。
まだまだ私自身、知らないことが沢山あります。
これからも探求は続いてくでしょう。
The Game ChangersはVIMEOやiTunesから観れます。
https://gamechangersmovie.com/the-film/where-to-watch/
※ネットフリックスでも視聴できるようですよ。
それでは。
- ”The Gladiator Diet”
https://archive.archaeology.org/0811/abstracts/gladiator.html - ”PLANT-CELLS AND THEIR CONTENTS”
https://en.wikisource.org/wiki/Popular_Science_Monthly/Volume_21/July_1882/Plant-Cells_and_their_Contents - ”Is heme iron intake associated with risk of coronary heart disease? A meta-analysis of prospective studies.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23708150