2017年9月。
初秋の雰囲気漂う空の下、長野県の高瀬ダムから岐阜県の新穂高に抜ける裏銀座コースを歩いた。
これは全行程を一眼レフ機でマニュアル撮影に挑んだ大縦走の記録の話である。
ペンタックスK-3の不具合(Av:絞り優先モードが使えない)を抱えたまま歩いた山行だった。
この山行ではすべての撮影をマニュアルで実施。
Av(絞り優先モード)に慣れきっていた私には新鮮なものだった。
多様な地形と光の中で撮影していく過程で適正露出というものを掴んだ山行でもあった。
今回はマニュアル撮影のみで歩いた様子を写真と装備の紹介を交えてご紹介する。
撮影レンズはHD PENTAX DA16-85mmF3.5-5.6ED DC WR がメイン。
すべて手持ちで撮影。
場所、太陽の光具合が変わる度にF値、シャッター速度、ISO感度を手動で変更して歩いた。
完全なマニュアル撮影は星空撮影とタイムラプス以外はやったことがない。
山で行動しながらマニュアル撮影するという点ではほぼ初心者だ。
今回歩いたコースは山小屋泊とツェルト泊を併用しての2泊3日の登山だ。
基本的な装備はテント泊まりと変わらない。
もくじ
山行行程
- DAY1:高瀬ダム → 烏帽子小屋 → 野口五郎小屋
- DAY2:野口五郎小屋 → 水晶岳 → 黒部源流 → 三俣山荘 → 双六岳 → 双六小屋(テント泊)
- DAY3:双六小屋 → 新穂高 → 大町(車回収)
車を「アルプス第一交通社」裏に置いてタクシーで高瀬ダムへ
多くの人が悩む駐車場問題、そして車の回収問題。
車を回収するにしても自分の持ち時間との兼ね合いもあある。
今回は自家用車で大町市の「アルプス第一交通」まで行き車のキーと共に車を置かせていただくことにした。
朝6:20、タクシーから降りて登山を開始。
9月の上旬とはいえダムを横切る風は冷たい。
シャッターを切るも日陰が黒潰れしてしまう。
野口五郎小屋へ
6:50、日差しが射し込んでくる。
DA 16-85mmF3.5-5.6ED DC WRはHDコーディングのお陰で逆光に強い。
いよいよブナ立尾根に差し掛かる。
北アルプス3大急登と言われているが、日頃から歩いている私たちにとっては容易いコースだ。
とはいえ、急登では上半身の筋力も連動した方がラクに登れる。
そこで役立つのがストックだ。
私が使っているのはのBLACK DIAMOND(ブラックダイヤモンド) トレイルだ。
雨続きだった夏が終わり秋の気配が近づいていた。
烏帽子小屋に着いたのは10:00。
マイペースで歩いて高瀬ダムから3時間40分で登ってきたことになる。
我々夫婦の体力に感謝をする。
登山を続けていると基礎体力がどんどん向上してくる。
習慣はいい結果を生み出してくれる。
山の風景はおこぼれを授かることはできない。
自分で風景を掴むために山へ行くというスタイルが性に合っているようだ。
稜線ルートに乗ると高瀬ダムが足元に広がっていた。
高瀬ダムから野口五郎岳へ向かうコースは人が少ない。
テーマパークと化した山を好まない人には是非ともオススメしたいコースだ。
難点は烏帽子小屋を過ぎると水場がないことだ。だからいつもMSRのドロムライトバッグに最大で4Lの水を入れて歩いている。
13:30、野口五郎岳の小屋に到着。
我々のスタイルは食事をつけないで素泊まりをするか、テント泊まりをすることが多い。
理由は時間に依存したくないからだ。
今回はソト(SOTO) のST-310で調理をした。
カセットコンロ型のガス缶を使えて火力も強くていいのだが嵩張るという難点がある。
ロングコースを歩く時こそコンパクトなソト(SOTO) のウインドマスター が重宝する。
早速自炊室でsmc M28mm F2.8の単焦点レンズに付け替えて撮影。
このレンズ、遠景にはすこぶる弱いが2、3m離れた被写体をドラマチックに映し出すのは得意だ。
水晶岳小屋へ
縦走登山は早朝の早立ちが基本だ。
理由は2つある。
ひとつは午後になると雲が上昇してきて降雨になる可能性があること。
だから早めに行動して午後2〜3時には次の目的地に着いておきたいということ。
もうひとつは散策を楽しみたいから早めに出て風光明媚な場所でのんびりと過ごしたいから。
もちろん我々の目的は後者だ。
長丁場な1日となるので体を動かすための糖質(炭水化物)を行動開始する前の1時間前には入れておきたい。
そこで役立つのが前夜に沸かしておいた熱々のお湯が入った山専ボトルだ。
このホットなお湯をドライフーズに注ぐ。
褒められた味ではないがお湯を入れて放置しておけばすぐに食べられるという利点がある。
早立ちの準備は前夜から始まっているというわけだ。
5:00、野口五郎小屋を出て誰もいない稜線の荒野を我々は歩き出す。
時折、秋の冷たい風が稜線の間を吹き抜けて行った。
静寂な時間お中に歩を進める足音と風の音だけが聞こえる。
頭がどんどんとクリアになっていく。
朝6:15。
すでに水晶岳に射す陽射しは強くなり始めていた。
夜明け後の光の変化は激しい。
カメラのISO感度、シャッタースピード、絞りの設定値を変える作業が忙しい。歩きながらだから尚更だ。
これまでいかにAv(絞り優先モード)でISO感度やシャッタースピードがAutoで最適化されているシステムの恩恵を受けていたのかを実感した瞬間だった。
野口五郎小屋から歩くこと2時間、水晶小屋が見えてきた。
ここに至る稜線は風が強く体感気温が低くなる。
山で怖いのは風で発熱しているハズの体が冷えてしまうことだ。
こうなるとリカバリーするのが大変だ。
稜線ではレインウェアを1枚着ただけで風から身を守ることができる。
水晶小屋は近いが油断は禁物だ。
山と高原地図 鹿島槍・五竜岳には危険マークはついていない。
しかし山の事故は気の緩みから発生する。
7:20、水晶小屋へ到着。
まだ1日は長い。
これからがハイライトだ。
水晶岳を目指す。眼下に見える雲ノ平が圧巻
水晶小屋は目前だ。
歩いてきたコースを振り返る。
意外とアップダウンが激しい。
7:50、水晶小屋の前にザックをデポして水晶岳を目指す。
今回は大事なサブザックを持ってこなかった。
使わないときはザックの中に小さく丸めて収納できる防水式のミレーの軽いバッグだ。
ところがメインのザックはよくできていて、グレゴリーのバルトロは雨蓋がウエストポーチにできる。
今回はこの雨蓋をウエストポーチにして、飲料水、行動食、レインウェアを入れて水晶岳までアタックしてきた。
軽快に行動したい時には便利な機能だ。
左手には雲ノ平が見える。
絶景のオンパレードだ。
奥には笠ヶ岳、手前には三俣蓮華岳が見える。
正しくここは北アルプスの中心部だ。
この景色を手に入れるには、日頃のワークアウト、日々の食生活、時間の管理をきちんとこなさなければ実現できない。
黒部五郎岳ドアップ。
稜線から特定の被写体を撮影する時はズームレンズが便利だ。
これで85mm(換算130mm)だ。
DA★スターレンズに匹敵する描写力があると噂されるDA16-85mmはF値こそ凡庸ではあるものの写りはいい。
水晶岳へ向かう途中はロックロックした地形だ。
下に見える谷は新穂高、高瀬ダム、折立のどこから入っても片道2日間かかる秘境・高天原へ続いている。
美しい。
緑の景色の中を雲の影が移り変わる様子を上から眺める。
いくら見ても飽きない。
水晶岳のピーク近くでブロッケン現象に遭遇した。
いくらお金を積んでもここには来ることができない。
自分の足で辿り着かなければならないのだ。
水晶小屋に戻る途中で撮影。
鷲羽岳へ向かう稜線だ。
カッコイイ。
これだから登山はやめられない。
都心のど真ん中でデジタルサイネージに流れる自然の風景よりもリアルな風景の方が数十倍も価値がある。
水晶小屋へ戻ってくる。
ここには広大な景色が広がっている。
奥には槍ヶ岳が見える。
こんなアングルで槍ヶ岳をなかなか見ることはないだろう。
早朝、歩き始めた野口五郎岳が見える。
アップダウンが意外とあるなぁ。
黒部源流へ
時間はまだ9:10。
黒部源流へ向かう。
9:18、後ろを振り返ると水晶岳への稜線が見える。
日差しが強くなってくる時間帯だ。
こんな時に役立つのがOUTDOOR RESEARCHの折りたたみでできるツバ付き帽子・レイダーポケットキャップ だ。
この帽子は便利だ。
折りたためるからザックのサイドポケットにも入れておける。
これであなたの頭部を直射日光から守ってくれる。
黒部源流の谷へ差し掛かる。これからこの谷底へ下って行くのだ。山は峠と谷地形があった方がオモシロい。
夏が終わり秋が始まる前の黒部源流。
初夏真っ盛りの7月に、ここに来るとまだ雪渓が残っているのだ。
山の夏はあっという間に過ぎ去ってしまう。
チャンスは6週間だけだ。
季節はとても価値がある。
季節感を厳かにして生きている日本人は勿体無いことをしている。
黒部源流の素晴らしいところはフレッシュな源流の水が入手できることだ。
この水は鷲羽岳から湧き出ている。
無数の湧き水がストリーム(小川)となりやがて1本の川になる。
かつてここで年配の方にジェットボイルで沸かしたフレッシュな湧き水でコーヒーをご馳走になったことがある。
味はどうかって?そりゃ美味しいに決まっている。
パラダイスなストリーム(小川)。
正真正銘の生まれたての水だ。
塩素も何も入っていないクリーンな水だ。
透き通った水。
下ってきた黒部源流の谷間。
カッコイイV字型の谷間だ。
三俣小屋へ
時間は11:00に差し掛かっていた。
黒部源流の谷底から再び登り返す。
遠方に水晶岳が見える。
随分と歩いたものだ。
初秋と晩夏の境目の季節。
日中はまだまだ暑い。
汗が滴り落ちる。
こんな時は頭に手拭いを巻くに限る。
山小屋でに行けばオリジナリティー溢れる手拭いが販売されている。
三俣山荘に着いた。
槍ヶ岳を85mm(換算130mm)で引き寄せて撮影してみた。
やはり縦走ではズーレンズが便利だ。
足じゃ画角稼げないからね。
三俣山荘は標高2500m弱の位置にある。
実に風光明媚な場所だ。
小屋の中は風情がある。
時間は11:10。
野口五郎小屋を出てから6時間行動している。
流石にお腹が空く。
メインの行動食は保存が効くパンを持っていくというスタイルに落ちつている。でも飽きてしまうんだ。
また小麦粉かよ!ってね。
ここでも小麦粉を食す。
ただ塩分が体に染みるんだ。
汗と一緒に塩分が体外に出てしまうんだ。
だからスープまで飲み干してしまう。
山では今差し迫った栄養素を補給するが最優先だ。
外に出ると今日の宿泊予定地の双六小屋が見える。
私はここでツェルト泊をするために寝具一式を担いで来た。
理由は星空撮影をしたいからだ。
双六岳へ
後ろを振り返る。
三俣山荘と鷲羽岳が見える。
ここは間違いなく世界でも屈指の美しさを誇る場所だ。
何度来ても飽きない。
美しい。
いつ来ても同じ素顔は見せない。
毎回、異なった表情を見せてくれる。
これだからまた行きたくなってしまう。
丘を登り切って更に三俣蓮華岳のピーク手前で、オーマイガッ!な風景が待ち受けている。
美しいカール地形だ。
風景を見るという行為はおこぼれを授かることはできない。
少なくとも、その地まで自分の足で体と装備を運んで行かなければ見ることはできない。
時刻は12:50。
三俣蓮華岳の頂上から下って来た黒部源流を75mm(換算112mm)で切り取る。
何とも圧巻ではないか。
かっこ良過ぎるぜ、この谷は。
後ろを振り返る。
双六岳に雲がかかってるー。
フィナーレも花を持たせてくれよ、と思う。
また後ろを振り返る。
二度とこれと同じ風景をここで見ることはできない。
次に見る時は初めての表情を見せるからだ。
人は一瞬の体験に生きている。
その体験を味わために日々、努力をする人たちがいる。
信念。
双六岳の見所は槍ヶ岳がドーン!と見えること。
それも夕方が良い。
西日が槍ヶ岳に当たるからだ。
うまくいけば真っ赤に染まるアーベントロートが見れるだろう。
気まぐれな天気に振り回されこうしてタイミングを逃すことが多々ある。
今回はチラ見で終わってしまった。
14:50、テント場着。
相棒は山小屋へ。
私はツェルトを張って星景撮影の準備をする。
しかし、天気は微笑んでくれなかった。
オシマイ。
翌日は暗黒のような天気の中、新穂高へ向かった。
あまり写真がないのここで終わりにします。
この山行ではほぼK-3 + DA16-85mmで撮影をした。
ボディのAFと自動露出が故障していたため、全てマニュアル撮影をしている。
もし、もっとスローペースで行く、またはエリアを絞って行くなら、もっとレンズのバリエーションを増やすだろう。
あなたはレンズ、何持ってく?
それでは。