登山で体力が必要だわ、と言うけど具体的に何のことを指しているんだろうか?
と疑問に感じることありませんか。
体力があればいい。
うん、それは分かった。
じゃあ具体的に体力って何よ?
あなたは「登山における体力とは何ぞや?」という質問に答えられますか?
実のところ、持久力や脚力があることで片付け(られ)ていませんか?
当記事では日頃からワークアウトを実践し登山に行ってる私なりの視点で
”体力”と一括りにされた抽象的な表現を実例と共により具体的な表現に変換し、ブレの少ない解釈を得ることを目的とした内容です。
対象読者
・登山における体力の意味を知りたい人
・荷物を多く背負って登山をする人
※どちらかと言うと男性視点で書いてます。
もくじ
体力には4つの種類がある
体力とは何でしょうか?
大きく分けると
・心肺機能
・筋力
・筋持久力
・防衛体力
です。
では、それぞれの言葉の意味を細分化して具体化していきましょう。
心肺機能は脚力と連動している
ご存知の通り登山では心肺機能を使います。
心肺機能が強いほど同じ強度の運動量でも脈拍が少なく済みます。
つまり、呼吸が楽でゼェゼェしにくいわけですね。
しかし、登山では心肺機能だけ鍛えても機能しません。
心肺機能は脚力と連動しています。
脚力の中でも太ももの前(大腿四頭筋)と、お尻(大臀筋)が連動するような動作では、自分の体重と荷物の重量に対して筋力不足だと息が上がりすくなります。
登山で必要となるのは体重に対する相対筋力の強さ
筋力とは筋肉の強さのことです(当たり前のことですけど)。
よく、筋肉量とか言いますよね。
要するに筋肉が太くて結果的に筋肉量が多いということになります。
この筋肉が太いほど、つまり筋肉量が多いほど筋力が強いです。
一般的には。
筋肉量が多いほど体重も重くなります。
ところが登山では体重が重過ぎるとパフォーマンス低下につながります。
仮に筋肉量が多かったとしても…
体重に見合った心肺機能を備えていなければ、筋肉はただの重りになる。
関節への負担が増える。
内臓への負担が増える。
筋肉に食わせるカロリーを摂取し内臓で処理しなければならないから。
じゃあ、どうすればいいんだ?
筋肉の太さに対して、つまり体重に対して相対的な筋肉の出力、つまり筋力を高めるというアプローチです。
例えば、体操選手やクライマーを思い浮かべるといいかもしれません。
彼らはボディビルダーのような大きな筋肉はないけれど体重に対する相対的な筋力が高いですよね。
登山者が目指すべきは、大きなバルクがある筋肉を作ることではありません。
自分の骨格に見合った体重の範囲内で相対的な筋力を高めることです。
人は骨格に見合った体重の範囲内の筋肉量しか手に入れることができません。
前述した通り、体重が重いほど、つまり鍛えまくって体重を増やすほど筋量が多くなります(太くしやすい)が、登山におけるパフォーマンスが低下します。
骨格に見合ったとはどのくらいなのでしょうか。
BMIで26前後までが登山のパフォーマンス発揮をするうえでの上限値かなと思います(あくまでも体感値ですよ)。
身長が160cmなら66kg。
身長が170cmなら75kg。
身長が180cmなら84kg。
私の場合ですと過去の最高体重が72kg、BMIは26.5くらいでした。
それでは、具体的な筋力がどんな場面でどのような動作で使われるのかを細分化していきましょう。
脚力を使う場面には3つの動作がある
登山で必要な部位で登場するのが脚力です。
じゃあ、脚力って具体的に何のことでしょうか?
下から上へ押し上げる力:(段差を登る時)
登山では段差をある場所で片方の足に体重を掛けて登ることがあります。
例えば、木の根が張り巡らされている急登や、大きな石が転がっている岩場などです。
この時使われる筋肉は3種類あります。
一番よく使われるのがお尻の筋肉(大臀筋)です。
次いで、使われるのが太ももの前(大腿四頭筋)です。
最後に使われるのがふくらはぎです。
この動作はブルガリアンスクワットで鍛えることができます。
前方へ推進し進む力:(緩い斜面を前進している時)
段差がある場所というのは限定的だったりします。
登山では緩やかに標高を上げていくような斜面もあります。
例えば、鏡池から弓折乗越の登山道が挙げられます。
このような場所では、足を後方へ蹴りだすように前進する力を使います。
この時、使われる筋肉が太ももの後ろ(ハムストリングス)です。
登山では大腿四頭筋にクローズアップされがちですが、後ろの筋肉も大事なのです。
ハムストリングスは足幅を広くしたブルガリアンスクワット、お尻を後ろに突きだすように動作するルーマニアンデッドリフトで鍛えることができます。
前方へブレーキを掛けながら進む力:(下山)
登山の事故は下山に起こりやすいです。
理由は筋疲労の蓄積より筋力のパフォーマンスを発揮できなくなることにより、転倒してしまうことがあるからです。
私も重装備で縦走を終え斜度のある下山をしていると、踏ん張りが効かなくなり転んでしまったことが幾度かあります。
下山では前方へ進む重力に逆らいブレーキを掛けながら進む筋力が要求されます。
この時に使う筋肉が太ももの前(大腿四頭筋)です。
登り以上に使います。
このブレーキを掛けながら力を発揮する筋力は、スクワットでは鍛えられません。
もし、自宅でやるとしたらシッシースクワットがいいでしょう(私はやってないけど)。
しかし、一番効果的なのは登山の下山を多くこなすことだなと感じます。
理由は、一定の力で筋力を発揮し続ける持久力が必要だからです。
太ももを上に引き上げる腸腰筋
登山で使うのは脚力だけではありません。
インナーマッスルも使います。
中でも一番、酷使されるのが太ももを上に引き上げる腸腰筋です。
登山では太もも上に引き上げる動作を何千回も行なっています。
もし、腸腰筋が弱いと足が上がりづらくなり転倒につながります。
また、仮に脚力があったとしても腸腰筋が弱いと腿を上げる動作が鈍くなってきて、登攀スピードが低下します。
特に積雪期の登山をする方は、アイゼンを着用しているため登りで腸腰筋の筋力と持久力が必要になります。
腸腰筋は足上げ運動で鍛えることができます。
体幹部の筋力とは脊柱起立筋のことである
体幹部とは何のことを指しているのでしょうか?
抽象的でよく分からないですよね。
ここでは体幹部の意味を
「体が前後にブレないように支える背骨付近の筋肉(脊柱起立筋)」
として取り上げます。
脊柱起立筋は体の中でも力が強く持続力を発揮できる筋肉です。
あまり意識してないかもしれませんが、ザックを何時間も背負って歩けるのは脊柱起立筋のおかげなんですよ。
脊柱起立筋が弱いと猫背姿勢になります。
背中をピン!と張ることができません。
脊柱起立筋はブリッジ運動やデッドリフトで鍛えることができます。
腕力は押す動作・引く動作で必要
実のところ、登山では腕力のみ使うという場面はほぼありません。
必ず体幹部の一部と連動しています。
それはどの部位かと言うと、胸の筋肉(大胸筋)や背中の外側の筋肉(広背筋)です。
また、前腕の中でも握力と連動しています。
それがこれから説明する3つの動作です。
後方へ押す力:(ストックを使って前進している時)
比較的斜度が緩めの登りではストックを使って推進力を得るような歩き方をしているのではないでしょうか。
脚力+上半身の筋力で歩きますからグイグイ歩けますよね。
ストックを後方に押し出す動きで使う筋肉が上腕の裏側(二の腕と言われるやつ)です。
いわゆる上腕三頭筋です。
大胸筋の動作が伴う場面もあります。
それはストックを前方に置いて押し出して推進力を得る場合です。
例えば、段差があるような場所ではストックを前方に突き出して、ヨイショ!と登ることってありますよね。
その際に大胸筋も使っているんですよ。
下から上へ押し上げる力:(岩場を上り下りする時)
実は他にも上腕三頭筋と同時に大胸筋の動作も伴う場面もあります。
それはどんな場面か?
岩場です。
岩場では両手を添えて体を支えながらゆっくりと垂直方面に下りる場面がありますよね。
その際に使われるのが、上腕三頭筋と大胸筋です。
先ほど説明したストックを後方に押し出す上腕三頭筋も含め、体を支えながら垂直方向に押し出す力は、ディップスで鍛えることができます。
握る力:(鎖場)
いわゆる握力ですね。
握力(握る動作)は日常生活でもよく使っていますよね。
登山でも握力を使う場面は少なくありません。
ストックを握る。
鎖を握る。
特に鎖場では重い荷物を背負っているほど握力が要求されます。
とは言っても、平均的な握力(40〜50kg)+グリップがきくグローブがあれば大丈夫かなと思います。
握力の中でも必要となるのは、握り続ける種類の力です。
ハンドグリップを握るよりも、鉄棒にブラ下がったほうが効果的です。
更にタオルを巻いてぶら下がると、より効果です。
握力は引きつける力と連動します。
体を手前に引きつける力:(鎖場、ハシゴ、岩場での補助)
鎖場や岩場では体を引きつける力が要求される場面があります。
また、ハシゴでも補助的に引く筋力を使います。
一般的には鍛え上げるほどの筋力がなくても大丈夫ではありますが…。
万が一、足を滑らした際に体を支えるだけの握力と引きつける筋力があれば大惨事になる事態を回避できますよね。
また、筋力があるだけで精神面での安心感もあります。
実際に多少ブレた動きをしても体を支えられる筋力があるんだという心理はありますよね。
いわば精神安定剤です。
引きつける力は力こぶ(上腕二頭筋)と背中の外側の筋肉(広背筋)の筋力を使います。
もちろん、この動作は懸垂で鍛えるのが一番ですね。
筋持久力
登山では持久力が必要だということは、誰もが理解しているところではないでしょうか。
登山では心肺機能の他に、筋肉が一定の力で動作をし続ける筋持久力が必要です。
これまで説明してきた筋力の中でも
・大腿四頭筋、ハムストリングス、大臀筋
・脊柱起立筋
は最低限の筋力を備えたうえで何時間も出力を持続できる持久力を備えておく必要があります。
この種の筋力を鍛えるのは実践が一番ですね。
いわゆる筋トレだけでは手に入れるのが難しい種類の筋力です。
登山をするうえで必要となる筋力+余裕分のバッファはワークアウトで鍛えつつ、実践で使うというアプローチがいいのではないでしょうか。
上半身は持久力というよりも単純に筋力でカバーする場面が多いですよね。
ストックでの歩行動作以外は。
いずれによ、筋力があって損をすることはありませんね。
関節の故障リスクの回避と脚力
登山で使うのは筋肉だけではありません。
関節も酷使しています。
特にヒザ関節を使いますよね。
関節を酷使した結果、関節に疲労をためてしまうと故障してしまう要因になります。
筋肉と違い一度故障してしまうと完治するまでに時間がかかります。
私が考える関節の故障リスクを回避する方法は2つあります。
・関節を酷使したら連続的に使わない
・筋力を担保しておく
時として長時間、重い荷物を背負って行動することがあるなんてこともありますよね。
特に下山ではドスン!ドスン!というような乱暴な歩き方をしていると、その衝撃をヒザ関節で受けてしまいます。
ヒザ関節に衝撃を与えない歩き方は、筋力でブレーキをかけながら丁寧に歩くことです。
とは言え、筋肉も酷使すると疲労して筋力発揮できなくなってきます。
その際に筋力を温存する意味でもストックを併用して下山をする、なんて人がほとんどではないでしょうか。
激しい登山をやったら次回は少し軽めの登山にとどめるも一つの手です。
筋肉が回復しても関節への疲労は知らず知らずのうちに蓄積していきます。
例えば、今週は南岳までテント泊まり装備で縦走したから、次回は日帰り装備で筑波山にしておこうみたいな感じです。
外部環境の変化に対する防衛体力
登山で盲点になりがちなのが防衛体力です。
筋力や持久力を備えていたとしても、防衛体力が弱ければ本来のパフォーマンスを発揮できません。
では防衛体力とはどんなのがあるのでしょうか。
登山における防衛体力とは、温度や湿度の変化に対する適応力です。
気温への耐性
夏場の灼熱登山ってキツいですよね。
気温が高いと歩くスピードが一気に遅くなります。
加えて、脱水症状のリスクもあります。
灼熱登山を意識的に回避するには、なるべく涼しい時間帯に標高を稼いでしまうことです。
当然、心肺機能が強く筋力と筋持久力があるほど、標高を稼ぐスピードも上がります。
基礎体力があるほど有利になるんですよ。
もう一つが寒さへの耐性です。
動いていれば体が発熱しているので、さほど寒さを感じません。
寒さを感じるのは休憩を取った時です。
こればかりは、レイヤリングで調整するしかありませんね。
体感気温は個人差があるのでベストなレイヤリングをご自身で探していくのがいいでしょう。
湿度への耐性
気温が15度程度でも湿度が高いと汗だくになってしまいます。
湿度に対する耐性ってどうやってつけたらいいのでしょうね。
実は私も分かりません。
強いて言えば吸湿性の高いベースレイヤーを着用することでしょうか。
内臓の処理能力
登山をやるとお腹空きますよね。
摂取した食べ物を消化するために内臓はフル稼働しています。
消費してしまったカロリーを補うために下山してからも何か食べますよね。
ですから内臓が休まる暇なんてないんですよね。
内臓の処理能力も限界があります。
食べて鍛えるの一番なのでしょうが、内臓疾患のリスクがこわいですね。
個人的には多くの食べ物を食べてカロリーを補うよりも、少量でもカロリーが高いものを食べたほうが内臓への負担が軽いと感じています。
その食べ物がナッツです。
悪くなりませんし、小分けにしておけばポケットに突っ込んでおけます。
特にカシューナッツやクルミはナッツの中でも柔らかく噛み砕きやすいので重宝しています(スーパーでも見ますよね)。
以上、登山における体力とはなんぞや?
というお話でした。
それでは。