2020年9月。
かの有名な表銀座縦走コースを4日間かけて逆走で歩いた。
山を16年(※1)やっていてこのコースを未だかつて繋いだ(※2)ことがない。
魅力を感じてなかったからだ。
その訳。
- 人が常に多いイメージが自分の頭に定着していた
- 燕山荘から大天井岳に至るコース、上高地から槍沢へのコースは何度も歩いているので歩く気になれなかった
常に頭の中には想像の範疇に収まる場所という考えがあった。
だから別に行かなくてもいいと。
※1 北アルプスに本格的に通うという意味では10年
※2 大天井岳から水俣乗越の区間
もくじ
キッカケは突然やってきた
当初は9月の4連休を利用して八幡平から縦走する予定だった。
しかし、問題点があったのだ。
コロナの影響で。
連休中は避難小屋を併用した登山をやりたくない(密によるリスク回避)というのが本音なのだ。
そのためコースの途中に温泉宿を取ればいいと考えた。
が、予約で埋まってしまった。
ならば、松川温泉の麓にあるキャンプ場に前泊し、翌日は三ツ石山を経由して八幡平まで抜け、そこから盛岡行きのバスに乗って松川温泉で下車し、自家用車を回収すればいいと考えていた。
しかし、肝心のキャンプ場も2020年は営業をやってなかったのである。
どうしても行動の制約を受けてしまう…
あーでもこーでもないと悩んでいるうちに急浮上したのが北アルプスの表銀座逆走コースだった。
通常は中房温泉から入り、合戦尾根を登り燕山荘を経て、大天井岳から槍ヶ岳方面を目指す人が多いコースである。
このコースを上高地から入り中房温泉まで逆走しようと思ったのである。
なにしろコロナ禍の状況でもテントサイトの予約が不要だったのだ。
あれほど苦労して予約をした三俣山荘のテントサイトとは状況が異なるのである。
つまり例年通りフレキシブルに動けるということでもある。
ガチガチの計画をしなくても思い立てば山に入って動けるという点が2020年のコロナ禍の世界では魅力的だった。
上高地INなら小梨平、徳沢園、横尾とテントサイトも分散されている点も物理的なスペースを確保できると想定できた。
(同じ頃、立山の雷鳥沢キャンプ場で1000張りものテントが張られ激混みになったことは記憶に新しい)
こういう計画を立てている最中に東北の天気が芳しくない予報に振れたのだ。
こうして北アルプスへ向かうことになった。
DAY1
前夜にゆっくりと睡眠を取り上高地には13時前に入った。
連休で上高地スタートできる利点は急がなくてもいいことである。
上高地から徳沢園
FUJIFILM X-T3に単焦点レンズ「XF23mm F2 R WR」をつけて行動開始をする。
これで連休初日の上高地である。
ガラガラだ。
物理的に選択肢がある登山コースでは時間帯をズラせば混雑を避けられるのだ。
とはいえ、昼時なので上高地食堂は少々混雑気味。
そこでランチはおやきを買って食べることにしたのだ。
河童橋も人が少ない。
明神岳。
入った時間が遅かったせいか気持ち悪いくらい人が少なかった。
徳沢園。
連休初日ではあるが激混みという感じはない。
9月ならまたビールがいける。
調理はお湯ベースで。
バーナーはSOTOウインドマスターSOD-310を使っている。
コンパクトなので嵩張らないのだ。
火力も申し分ない。
手間を省くためにアルファ米を持って行った。
テント場で飲む珈琲って美味いよね。
コップはSEA TO SUMMITのXカップを使っている。
折り畳みができて携帯性に優れているのだ。
欠点は保温性が低いことである。
暗くなってきたら単焦点広角レンズ「SAMYANG 12mm F2.0 NCS CS」に付け替えて撮影をする。
明るいレンズだけど結局絞って撮影しているのだが。
テント同士の感覚はある程度保てているのでストレスを感じるレベルではなかった。
ローカスギアのクフ(Khufu HB)は大人2人で入っても広めである。
インナーのメッシュは長さ230cm、幅135cm あるのだ。
これならザックをテントの中に置いても人がゆったりと過ごせるスペースを確保できる。
クフは携帯性にも優れている。
アウターのフライの重量が390g。
インナーメッシュの重量はが60g。
ペグが16本で180g。
フットプリントが160g(なくてもOKなやつ)。
A型フレームで設営するカーボン製のアイテム(Dual Pole Tip Extender)が84g。
これだけ持って1.2kgにも満たない重量なのだ。
耐風性にも優れ、雨にも強い。
詳しくは8月に北アルプスの最深部を縦走した時の話を読んでみて欲しい。
DAY2
2日目は徳沢園からヒュッテ西岳へ向かう計画だ。
連休、紅葉が始まる季節、比較的安定してる気象条件、自由に動けるエリア(コロナ禍ではあるがテント泊の予約が不要だったため)が相まって多くの人が向かう場所というのは自ずと決まってくる。
涸沢カールと槍ヶ岳である。
裏を返せばこの2箇所を避けるだけで空いた山歩きを楽しめるのである。
ということで、人気がそれほど高くもない西岳ヒュッテへ直行することにしたのだ。
徳沢園から大曲
朝6時、テントを撤収して出発をする。
この日もスタート時は単焦点レンズ「XF23mm F2 R WR」をつけて歩いた。
GPVでは辛うじて雨の影響を受けない地域だったので天気は安定しているものの朝は分厚い雲に覆われていた。
何度も通過した横尾山荘。
横尾にもテントを設営した人がちらほらと。
ここは一度も泊まったことがない。
見慣れた風景。
槍沢方面へ向かう。
標高1500m付近での紅葉はまだ早い。
秋の足音は感じる。
槍沢ロッジで休憩。
ここからは広角ズームレンズ「XF10-24mmF4 R OIS」に付け替えて歩くことにした。
だんだんと地形が開てくることが分かっていたからだ。
まだまだ緑が濃い。
地形が開けてくる。
ババ平テント場。
2日目の行動時間を短縮したければ1日目にここまで来てもいい。
ここまで来るとこの谷間地形歩き終わりも近い。
相変わらず分厚い雲に覆われている。
大曲からヒュッテ西岳
ここから水俣乗越へ向かう。
この分岐からの標高差は400mだ。
直射日光があれば汗だくになるコースだろう。
登り切るまでは曇ってくれていた方がいい。
次第に飛騨方面から雲が取れ始める。
飛騨側から青空が広がり出してきた。
セオリー通り天気は西から変わった。
1時間ほどで水俣乗越に出る。
ダケカンバの葉が少し紅葉し始めていた。
北鎌尾根、槍ヶ岳、南岳がよく見える。
歩いてきた谷間。
すれ違う人はほとんどいない。
黒部湖方面。
遠くには北穂高岳が凛々しく立っている。
この日の1番の難関はハシゴ。
とは言っても気を抜かなければ大丈夫。
秋晴れの山は最高だ。
12時を少しまわった頃、ヒュッテ西岳に到着する。
徳沢園から6時間、1日の行動時間としては長くもなく短くもなく程よい感じだ。
テントサイトへ向かう途中で振り返ったヒュッテ西岳。
ここでXF10-24mmから単焦点レンズ「XF90mmF2 R LM WR」へ付け替えた。
凛々しい山を撮るためである。
ヒュッテ西岳のテント場はあまり人気のない場所だが展望が素晴らしい。
行きにくいから?
北穂高岳。
蝶ヶ岳。
常念岳。
大天井岳。
小屋で入手した水をMSRの4Lのドロメダリーバッグに入れた。
小石が転がる地形に置いておいても破損しない。
生地が丈夫なのだ。
なにしろ1000Dの生地を使っているのだから。
水を入れてなければ折り畳める。
ザックの中で嵩張らない。
つまり使えるのだ。
価格は高めだがドロメダリーバッグはどこでも使えるタフなハイドレーションなのだ。
縦走中はテーブル三脚で済ませることが多いが、今回はGitzoのトラベラー三脚GT1545Tと雲台GH1382TQDのセット(GK1545T-82TQD)を持って行った。
今回の山行ではテント場を拠点に三脚を使って撮影をする時間を十分に取れると考えたからである。
夕方の斜光に染まる大天井岳。
夕方の遠景撮影もXF90mmF2 R LM WRで撮影した。
本来であればXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISを持ってくるべきだったが、なぜか単焦点レンズのほうを持ってきてしまった。
北穂高岳のシルエット。
西の空が染まり出す。
槍ヶ岳のシルエット。
常念小屋とテント場。
雲の下は安曇野市である。
蝶ヶ岳のテント場と松本市の明かり。
真っ赤に染まる西の空と槍ヶ岳山荘。
様になる絵だ。
北穂高山荘とテント場。
我が家。
雷鳥沢のテント場はニュースでも取り上げられるほど酷い混み具合だが、こちらはガラガラだ。
景色も独占してしまうのでオススメ。
DAY3
この日は一気にヒュッテ西岳から燕山荘へ向かい中房温泉へ下山するつもりだった。
少なくとも前日の夕方までの気分では。
中房温泉から穂高駅へ向かう最終バスは16:15。
ヒュッテ西岳から中房温泉までのコースタイムは約8時間。
自分たちのペースは、テント装備で休憩を取りながら行動して大体コースタイムくらいだ。
ということは、余裕を見て15:30には中房温泉は下山しておきたい。
そうすると、出発は遅くても7:30頃だ。
撤収は7時頃にすればいいかな、なんて考えていた。
しかし、思ったのだ。
「このコロナ禍でいつ山に行きづらくなるのかも分からない。もっとじっくりと味わおうではないか」と。
そう、この日はゆっくりと大天井岳へ向かうことにしたのだ。
わずか3時間半の距離である。
喜作新道の真髄
7時過ぎ、出発を開始する。
この日は稜線の縦走がメインなので朝からXF10-24mmF4 R OISをX-T3につけて行動した。
行動時間が短いのでせかせかと動かなくて済むのがいい。
連休中だというのに静かな稜線だ。
登山者がほぼいない状態が続く。
縦走路。
朝は曇りがちだったが次第に青空が広がり始めた。
常念岳。
大天井岳が真正面に見える。
気持ちがいい秋晴れだ。
牛首のコルにある大天井ヒュッテを通過する。
2020年はコロナ禍の影響で営業はしてない。
なぜ、ここの縦走路の人気が高いのか分かったような気がする。
景色がいいのだ。
中房温泉から入った人なら合戦尾根からちょこんと頭を出す槍ヶ岳を眺め、燕山荘から遥か遠くに見える槍ヶ岳を眺め、大天井岳へ向かいながら次第に距離を詰めていく。
更にヒュッテ西岳へ向かう喜作新道では真正面に槍ヶ岳が見えてくる。
この変化がドラマチックなのだ。
大天井岳も近い。
稜線が近い。
後ろを振り返る。
太陽が眩しい。
向こうには双六岳から三俣蓮華岳の山容が見える。
私の好きな稜線の一つで世界に誇れると思っている。
10時半頃、大天壮に到着した。
満員御礼の大天荘テント場
早速、我が家を設営する。
さすがに大天井岳まで来ると人が増える。
普段は食べなくなったけどチキン入りのカレーをオーダーしてみた。
が、やはりプラントベースを主体とした食事をしていると、どうも臭みが気になってしまう。
味覚が変わってしまったんだ。
でも、ナンは美味しかったぞ。
まだまだ時間はある。
あとは景色を堪能するのみ。
昼を過ぎたら槍ヶ岳方面がガスに覆われ出した。
2020年は雨にやられっぱなしだったから、せめて降らないで欲しいものだと心の底で思った。
大天井岳のピークに立ち燕岳への縦走路を撮影するもガスが上がり始めてしまった。
テントに戻りまったりと過ごす。
賑やかな大天荘のテント場。
安曇野側はガスが上がってきているが稜線で跳ね返される。
稜線の遠くに見えるは常念岳。
少しだけ引き寄せて撮影。
雲があるとセクシーな風景になるな。
振り返って大天荘と大天井岳を見る。
やはり安曇野側からガスが上がり稜線で跳ね返されている。
テント場の様子。
まぁ混み出してきたこと。
ミッドナイトの夜空を堪能する
夕方はガスに覆われたが夜中に外に出てみると見事にガスが取れていた。
これは散策するしかあるまい!
三脚にセットした単焦点広角レンズ「SAMYANG 12mm F2.0 NCS CS」をつけたX-T3を持ち出し天の川を狙ってみるがどうもサマにならない。
うーん…。
少し東大天井岳の方向へ向かい小高い丘の上で長時間露光をすることにした。
これで120秒の露光。
構図を変えて同じく120秒の露光で撮影。
最後は900秒(15分)の露光で撮影。
もっと露光時間を伸ばしたいところだけど寒くて妥協してしまった。
それでもサマになる絵で撮れたのでヨシ!
40分ほど撮影してテントに戻る。
だって寒いんだもん。
DAY4
連休最終日。
大天井岳から燕山荘を経由して中房温泉へ下る。
この日は最高の朝焼けとご対面できた。
なかなかこういうシチュエーションで歩けることがないのだ。
とても貴重なひとときを味わえた。
最高の朝焼けを味わいながら燕山荘へ
東の空が焼けてきた。
レンズをXF10-24mmF4 R OISへ付け替えて燕山荘へ向けて出発をする。
時刻は4:50頃。
雲海の空を眺めながら静かな空間の中をゆっくりと地面を踏みしめて行く。
好きだな、こういう空間。
ガラ空きの稜線って最高!
AM5:38、太陽が雲海から昇ってきた。
最高の朝じゃない?
一瞬だからね、この時間。
陽光で染まる山肌を眺めながら歩を進める。
ヤバいよ、この光。
ドラマチック!
朝の光で染まる葉が落ちたダケカンバと秋晴れの空。
縦走の向こうに燕山荘、更に先には燕岳のピークが見える。
もう少しで縦走路が終わってしまう。
名残惜しいな。
槍ってあんなに遠かったんだ。
感慨深いよな。
表銀座を歩く人の気持ちが分かったよ。
燕山荘。
見慣れた風景だ…。
20回以上歩いた合戦尾根から中房温泉へ
中房温泉から燕山荘の区間は20回以上歩いた。
だから新鮮味がなくデジャブ感満載なのだ。
見慣れたテント場。
いつも混んでいるイメージしかないが積雪期に行くと楽しい!
見慣れた合戦小屋。
ここはいつも人が休憩している。
淡々と富士見ベンチ、第3ベンチ、第2ベンチ、第1ベンチと進み、中房温泉へ下山をした。
淡々と…。
時刻は9:40。
大天井岳から4時間50分。
燕山荘からは淡々と歩いたから早めのペースだったかもしれない。
あとはバスに乗るのみ!
これで、表銀座の逆走の旅は終わり。
これまで食わず嫌いだった表銀座ルートの良い一面を見たように思う。
人が集まるのもなんとなく分かるわ。
以上で山行の話は終わり!
それでは。
施設情報
登場したアイテム
ローカスギア クフ(Khufu HB)
トレッキングポール1本で張れる軽量で雨や風にも強いテント。
ポールを2本使用しA型フレームで設営するDPTE(Dual Pole Tip Extender)を併用すると居住性が格段に上がる。
縦走時の救世主。
お湯を沸かし味噌汁と一緒に食べると完璧。
味噌汁についてはこちらの記事で詳しく書いている。
携帯性に優れたカップ。
難点は保温性が弱いこと。
最強の給水ボトル。
4L、6L、10Lのラインナップがあるが、2人の縦走登山なら4Lで必要十分。
コンパクトに折り畳めるうえ、生地が強いので石ころがある地面に置いても全然平気。
コンパクトで横風にも強いバーナー。
あまりにも便利なのでここのこところ縦走登山に行くときはSOD-310一択。
撮影機材
今回の縦走はボディ1台で行った。
テント泊を伴う縦走では頻繁にレンズ交換をしないことを踏まえボディ1台でいいという判断。
稜線上でのメインレンズ。
水俣乗越から燕山荘までの稜線で大活躍してくれた。
稜線からパンフォーカスを効かせた写真を撮る際に外せないレンズ。
XF23mm F2 R WR
上高地から槍沢ロッジ、燕山荘から中総温泉まではXF23mmで行動した。
森林限界以下の場所をスナップ撮影するのに役立った。
XF90mmF2 R LM WR
今回はランドスケープがメインの登山になるので、XF55-200mmを持って行くか迷って行くか迷ったが、結局XF90mmを持ち出した。
特に花もなく、雷鳥に出会うこともなく、これと言って狙い撃ちするような被写体もない状況でXF90mmを持って行ったけど逆に持て余した。
最初からXF55-200mmを持って行くべきだったな….と少し後悔している。
SAMYANG 12mm F2.0 NCS CS
天の川の撮影をしたいなと思って持ち出した。
これは持って行って正解。
結果的に天の川の撮れ高は悪く夜景撮影で終わってしまったが、露光時間を長くした撮影で大活躍。
マニュアルで無限遠にピントを合わせればいいので夜間に撮影するならXF10-24mmを使うよりも楽なのだ。
あと、日中の撮影でも長時間露光をする時は重宝するレンズでもある。
個人的には特殊な撮影をする時は10-24mmよりも好んで使っている。
フィルター径が67mmですので取り回しがいい。
ピント合わせも楽なのだ。
トラベラー三脚 GT1545Tキット GK1545T-82TQD
トラベラー三脚 GT1545Tとキット販売されている雲台。
キット名はGK1545T-82TQD。
Befree(カーボン)のトラベラー三脚を使っていたが、昨年の12月にGITZOの三脚に買い換えた。
安定性もあり、剛性も高く、脚の長さを瞬時に調整できる。
Befreeと比較すると価格は高めだが、価格なりの価値はある。
エクステンションチューブ MCXE16
今回の山行はスローペースで組んでいたため、余った時間を使ってテント場でぶつ撮りでもしようかと考えXF90mmにMCEX16を装着してマクロ的な撮影を目論んでいた。
結果、一度も使わなかった。
縦走中にあれこれ欲張ってもダメな例。